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「真に頼れるエンジニアを育てるために」

優れた技術を身に付けていることは必須だ。
さらに、自動車ユーザーがホームドクターのように頼ることができる整備士であること…
JAMCA、全国自動車大学校・整備専門学校協会が目標として育てる整備士は、まさにそのような人材である。

JAMCA会長 中川裕之 × ahead homme 編集長 近藤正純ロバート

クルマのホームドクターを育成する。

会長 中川裕之

会長 中川裕之

体の具合が悪いとき、信頼の置けるドクターに診てもらいたいと思うのが人情だろう。同じように、愛着を抱くクルマの調子が悪いとき、「この人なら大丈夫」と思える整備士に任せたいと思うはずだ。  そんな、クルマのホームドクターとしての役割を担うのが一級自動車整備士である。この一級自動車整備士を“ファーストクラス オートモービルエンジニア”と名付け、社会に送り出しているのが全国自動車大学校・整備専門学校協会、すなわちJAMCA(ジャムカ)だ。 「JAMCAの教育目標をファーストクラス オートモービルエンジニアの育成と定めたのは2001年のことです」と、会長の中川裕之さんは説明する。「国家資格である自動車整備士は戦後に整備が進みましたが、自動車が爆発的に普及した社会背景もあり、長らく二級と三級で完結していました」。  クルマは憧れの対象から実用品になった。さらに、ガソリンやディーゼル車など、内燃機関を動力とするコンベンショナルな自動車から、ハイブリッド車や電気自動車など、次世代自動車に主役の座が移ろうとしている。必然、整備士に求められる質も変わろうというものだ。クルマは憧れの対象から実用品になった。さらに、ガソリンやディーゼル車など、内燃機関を動力とするコンベンショナルな自動車から、ハイブリッド車や電気自動車など、次世代自動車に主役の座が移ろうとしている。必然、整備士に求められる質も変わろうというものだ。 「修理できればいいという即戦力的な考えではなく、物事の本質を理解することが大切。そのためのトレーニングも必要だという思想を背景に、一級自動車整備士を養成する課程の普及に乗り出したわけです」。  2005年に誕生した「自動車大学校」(四年制)は、クルマの専門分野では唯一の最高学府である。ユニークなのはそのカリキュラムで、「資格取得のためのプロセスに必要以上に負担を掛けさせない」のが特徴だ。JAMCA会員校が教育カリキュラムを共有化していることなどが奏功し、一級自動車整備士合格率9割の高率を誇る。 「本格普及はずっと先だと予測されていた電気自動車が身近な存在になりつつあります」と、中川さんはクルマを取り巻く環境の変化を説明する。「低炭素社会が国のキーワード。近い将来、電気自動車が急速に普及していくことは間違いありませんが、それと並行して、クルマの安全装備についても急速にエレクトロニクス化が進みます。そうなったとき、現行の二級自動車整備士や三級自動車整備士では対応が不十分。そこで、一級自動車整備士の出番です。ガソリンやディーゼルだけでなく、ハイブリッドや電気自動車などにも幅広く対応できる資格が、一級自動車整備士なのです」 「よく分かりました。分かりましたけれども……」と口を挟んだのは、本誌編集長の近藤正純ロバートだ。「例えば病院に行って『肩が痛い』と言ったときに、痛み止めや湿布を処方して終わってしまう医者と、そもそもどうして肩が痛くなったのか、という本質的な会話ができる医者がいます。僕としては後者の医者を頼りにしたい。クルマについても同じで、本質的な会話ができる整備士にクルマを任せたくなります」。  一級自動車整備士は技術面で三級、二級の延長線上にあるだけでなくコミュニケーション能力に優れた、ポジティブな意識の持ち主であってほしいという願いである。クルマの調子が悪ければ、悪い部分を直して終わり、ではなく、どうして悪くなったのか、悪くならないようにするにはどうすればいいのか。ユーザーとのコミュニケーションを通じ、温かく支援してくれる頼もしいパートナーのような存在。そういう整備士がいてこそ、クルマと過ごす生活が楽しくなるというものだ。

生きる力を身につけてほしい

近藤正純ロバート

近藤正純ロバートさん

「一級自動車整備士は二級や三級と技術のレベルが異なるのは大前提。それに加えて、相手のことを考える意識を持つことを大切にしています」と、中川さんは答える。技術一辺倒、知識一辺倒ではない。 「クルマをきちんと直すことも大事ですが、私はそれ以上に、生きる術を身につけることが大事だと学生に伝えたいのです。好むと好まざるとにかかわらず、私たちは競争社会に生きています。そういう時代だからこそ、学生には生きる力を身につけてほしい。そうすれば、自動車産業以外にも自分の能力を生かせるステージが広がりますから」。  若者にはっきりした夢と希望を持ってもらいたい。そして、それを実現する術を身につけてほしい──。そうした愛情が情熱に転化して、中川さんの口から熱い言葉がほとばしり出てくる。「挨拶はなぜするのか?」という問いが、中川さんの、いや、JAMCAの教育方針を見事に象徴している。「挨拶しろ」とは教えないのがJAMCAである。自発的に挨拶したくなるようなストーリーを話して聞かせるのだ。例えば次のような。「挨拶しなければ相手がどう思うか考えてください。何か行動を起こそうと思ったとき、必ず誰かの助けが必要になります。自分が頼まれる立場だとして、挨拶もできない人の言うことを聞く気になりますか?そう考えれば、挨拶は自分を相手に売り込む最高のプレゼンテーションだということが分かるでしょう」。  技術や知識を型どおり教えることが、JAMCAの考える教育ではない。国家資格の取得を通じて、生きる力、すなわち実践的なコミュニケーション能力を身につけさせることにも、同じように力を入れる。「あの人に任せたい」と思わせる、頼れるエンジニアを育てるために。


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aheadとは、カー&モーターサイクルマガジンをテーマにした、発行部数70,000部を超える月刊のフリーペーパーです。



月刊フリーマガジン「ahead」に4回にわたり自動車整備し関連のインタビュー記事が掲載

記事掲載内容

7月号
JAMCA会長インタビュー
8月号
夢と希望にあふれる一級自動車整備科学生インタビュー
9月号
JAMCA会員校一級取得者の現状インタビュー
10月号
求めるのは、広い視野と主体性を持った人材

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