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「求めるのは、
   広い視野と主体性を持った人材」

JAMCAで育てられる一級整備士たち。卒業後、さまざまな職 場に巣立っていく彼らは、どのような期待を担っているのか。EV製作で注目を浴びるゼロスポーツの代表であり、JAMCA加盟の関東工業自動車大学校特別講師でもあるでもある中島徳至さんに話をうかがった。

全体写真(中島徳至と生徒たち)

中島徳至/(株)ゼロスポーツ 代表取締役。ゼロスポーツは EV の独自開発のほか、カスタマイズ事業も行っている。1994年創業(www.zerosports.co.jp/)

「私は講演を通じていろんな学校を訪れていますが、学校教育で大事だと感じるのは、いかに生徒に対して付加価値を与えられるかです」。
こう語るのは、株式会社ゼロスポーツ代表取締役社長の中島徳至さんである。『ゼロスポーツ』は現在のように世の中の環境意識が高まる以前から電気自動車(EV)に目を向けている。国内17番目の自動車メーカーとしてEVの開発を軸に事業を推し進める一方、若者の育成にも熱心。その一例が『中島塾』だ。
「休日に大学生を20名ほど集めて勉強会を開いています。なぜかというと、最近はキャンパスに自己啓蒙の機会がほとんどなく、本を読んで単位を取れば卒業できる。それではまずいと気づいても、肉声をやりとりする機会がないので心が揺さぶられない。そうした不安を覚えて私のところにやってくる学生が多いですね。私は彼らにきっかけを与えるだけです。すると、彼らは『自分の思っていたことは間違っていなかった』と安心して、開花するんです」。
中島さんは実業家ならではの、あるいは社会の先輩としての知識と刺激を与えるつもりで教壇に立つのだが、知らず知らずのうちに教育者の立場が顔を覗かせ、学校のムードを嗅ぎ取ってしまうようだ。
「この学校は整備士の資格取得に必要なことを教えるだけでなく、人として生きるきっかけを教える学校だというのが率直な感想です。整備士である以前に、まず人であることが大事。きちんと挨拶のできる生徒に触れていると、その点がきちんと刷り込まれているのを感じます」。
だが、それだけでは不十分だと、中島さんは厳しい目で指摘する。
「刷り込みが表面に乗っかっているだけですから、外の世界に出た途端に剥がれてボロが出てしまう。ボロが出ないようにするには、ひとりひとりの意識が大事です」。

写真(中島徳至)

ボロを出さず、上手に社会を生き抜いていくにはどうすればいいのか。中島さんは次のように指南する。
「小さな成功体験の積み重ねが、その後の大きなビジネスチャンスにつながります。小さな成功体験のない人が、いきなり大きなことをやろうとしても無理。それにはまずコミュニケーション能力を高めることです。
『整備士だから自分が相手にするのは機械』と決めつけるのではなく、職場環境の中でのコミュニケーション能力、すなわち、上司や同僚、お客様とのやりとりが重要な意味を持ってきます」。
成功を体験するにはまず、課題を見つけ、それにチャレンジすることが必要だ。だが、そう簡単にコトが運ぶとは限らない。中島さんもその点は重々承知していて、「私の経験から言うと、失敗が必要」とやさしく語りかけてくれる。
「身を切られるような失敗をすることが人間力のアップにつながる大きな要素だと思います。それを学校で体験しておくことが重要です」。
成功の裏には数多くの失敗が隠れているもの。失敗を重ねた末に小さな成功をつかみ、小さな成功を積み重ねて大きなビジネスチャンスにつなげる。目標に向かって主体的に取り組まないと、社会を生き抜くことはできない。とくに、一級自動車整備士にとっては。
「お客様の側からすると、一級自動車整備士は何でも分かる人だろうと過度に期待する傾向があります。ところが実態は、社会がどんなものかも分からず学校で資格を取得しているに過ぎません。そのギャップを埋めるのがインターンシップ制度です。JAMCA加盟校の多くがこの制度を採用していると聞いていますが、実社会に触れて、現場の職場環境の中でコミュニケーションをとると、人間力のアップにつながります。コミュニケーション能力を高めるにはまず、自分をさらすことです」。
さらに中島さんは、「これからの自動車整備士は広い視野を持つことが必要」だと、自身の経験を踏まえて説く。整備士は元来、与えられた仕事だけをこなす自己完結型だが、それでは自分の将来を狭める結果になってしまう。整備士の本分は「機械を直すこと」ではなく、「お客様に喜んでもらうこと」である。そう意識を切り替えることが大切だ。
「自動車整備士にとって最初の壁はフロントに配置が換わることなんです。整備士も営業職も『目指すゴールはお客様に喜んでもらうこと』だと考えれば会社に期待されていることが理解できるのですが、そうでないと『外された』と感じ、反感を覚える。これでは狭い世界でしか生きていけなくなってしまいます」。
広い視野を持つことの重要性は、技術分野についても言える。
「私たちはいま、技術が目まぐるしく変革する時代を生きています。ガソリンやディーゼルもあれば、ハイブリッドも電気自動車もある。これらひとつひとつの構造を知っておいて損はありません。物事を広く知っていると、その視点が将来的にお客様に対するカウンセリングに役立つのです。医者に例えれば、西洋だ漢方だと、流儀に固執するのではなく、患者の状態に応じて柔軟に対応できる万能なドクターが理想。そういう整備士になってもらいたいのです」。
主体的に物事に取り組み、積極的にコミュニケーションをとること。そして、狭い観念にとらわれず、一歩引いて広い視野で物事を捉えることが、一流の整備士になる秘訣だと、中島さんは教えてくれる。そしてそれが、上手に生きるコツでもあると。


ahead表紙イメージ

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aheadとは、カー&モーターサイクルマガジンをテーマにした、発行部数70,000部を超える月刊のフリーペーパーです。



月刊フリーマガジン「ahead」に4回にわたり自動車整備し関連のインタビュー記事が掲載

記事掲載内容

7月号
JAMCA会長インタビュー
8月号
夢と希望にあふれる一級自動車整備科学生インタビュー
9月号
JAMCA会員校一級取得者の現状インタビュー
10月号
求めるのは、広い視野と主体性を持った人材

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